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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(行ツ)122号 判決 1981年5月14日

東京都文京区本駒込四丁目三七番六号

上告人

日本地建株式会社

右代表者代表取締役

小杉栄次

右訴訟代理人弁護士

伊賀満

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被上告人

本郷税務署長

竹原保

右指定代理人

鈴木実

右当事者間の東京高等裁判所昭和五四年(行コ)第三〇号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五五年七月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人伊賀満の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗)

(昭和五五年(行ツ)第一二二号 上告人 日本地建株式会社)

上告代理人伊賀満の上告理由

控訴審の判決は経験則に違反し、信じうべき証拠を採用せずその理由不備の違法がある。

一、原審判決の「理由」一項によると、原審の判断も一審の判決がその理由として説示するところと同一であるから、これを引用すると判示されている。

しかれども、一審の判決は次に述べるとおり経験則に違反し、かつ信じうべき証拠を信用せずしてこれを採用せずその理由不備の判断であつて、それは明らかに判決に影響を及ぼすものである。

二、一審の判決理由二項の冒頭に証拠として採用した各号証並に証言等を総合すると、次の1ないし5の事実が認められると認定して、その1乃至5に於てその理由を述べているが、一審判示のかかる認定は次に述べるとおり、経験上信じうべき証拠を採用せずしてなされた誤つた事実認定によりその判断を誤つているものとみられる。

(一) その1、2の事実認定についてはそのとおりである。ただ訴外兼松江商が地価の増加分を転売によつて利得しようと計画したと認定しているが、必しも単に転売によつて利得することのみをその目的としたものではなく、自ら市街地再開発の目的、自ら市街化等の目的をも有していたものである。

(二) その3の認定によると売買代金七億一、三一七万八、〇〇〇円は、坪当りの単価四五万と定め、これに本件係争物件を除く本件土地のみの実例面積一、五八四・八四坪を乗じて決定されたと認定しているが、かかる認定は次に述べる事由によりその認定を誤つているとみられる。

このことについては、上告人の昭和五四年七月二六日付準備書面二項の(4)乃至(7)に於て述べているが、更に次のとおりこれを補充してこれを明らかにする。

(1) 即ち、上告人の一審に於ける昭和五二年七月二一日付準備書面二項の二七行目より四一行目に於て述べたとおりであつて、本件係争地を含めて坪当り四〇万円とみて六億九、四七三万六、〇〇〇円で兼松江商へ売上げた七億一、三一七万円としてもその差額の一、八四三万円の利益が得られる計算のもとに、兼松江商と甲一号証の売買契約をなしたものである。しかして本件係争物件の買収については本件契約書(甲一号証)八条の約定のとおり必ず早急に買収することを特約しているが、駅前の店舗地域であるから、これが買収に現実に当つてみなければ果たしてかかる予期の代価で買収できるかにつき懸念もあつたから、とくに但し書きによつてこれを補てんせんとしたものであるところ、果たして現実にこれが買収に当つてみたところ、予期したとおりこれが買収は予定どうりにゆかず二軒の家屋とその敷地の賃借権のみしか買収できず、しかも、これが買収費は予期のとおりにならず九、四七五万四、五〇一円を要するにいたつたものである。(昭和四九年一一月上告人の東京国税局えの陳情書、上告人代表者小杉の一審の供述等)

(2) 兼松江商に於てもこれが買収契約前に於て、乙五号証の二のこれが買収予定の亶議承認書によつてみれば明らかなとおり、その3の二に明記のとおり、本件係争地についても、現場の状態これが物件(即ち借地権付店舗建物であること)につき調査の上確認し、この本件係争物件も含めて大体の坪当り単価四五万円位とみたものであるが、この単価は格安であること、ことに係争物件については買収価額も相当高価となることも予想していてこれも認識して禀議の上、これが買収の決意をなしたものである。しかもこの係争物件については前叙のとおりの現況であることを承知していたから、甲一号証の売買契約につき上告人とも特に話合の上、その八条をとくにもうけて、これを明約するとともに、しかも、但し書きによつてこれが買収価額がとくに高価となることをも相互に予め認め合つてこれを補顛することおも約しこの係争物件を含めて該契約を結んだものであることは、乙五号証の二、甲一、二、三号証によつてみればかかる事実が証明できる。即ち、かかる事実によつてみれば本係争物件は特定していて甲一号証に売買物件として含まれて該約定をなしていたものである。

(3) しかるに、上告人はこれが買収に当つてみたところ、一審判示二項5の前段に於て判示しているとおり、予定していた三軒の内一軒は買収できないのみならず、買収できた二軒についても建物とその敷地の賃借権のみであつて、予期した以上の高価の買収価額九、四七五万四、五〇一円の予想外の支出となつたものである。即ち一審の前記判示はかかる事実につきその認識を欠いたか或はこれらのことを考慮せず、単に本件土地のみの面積一、五八四・八四坪に坪当り四五万円で計算すれば約七億一、三一七万八、〇〇〇円となることのみを考慮認識かつ過信してかかる認定をなしたものであつて明らかな誤認とみられる。

(4) しかして、上告人の前記昭和五二年七月二一日付準備書面二項2(二)に主張したとおり当時上告人は資金繰難であり、しかも、かかる結果となつて買収額が予想外に増加したが、かかる場合を該契約当事者は予め考慮して該八条但し書きをとくに合意していたものであるから、該但し書きの約旨によつて、乙三号証の一、二、及び乙四号証の一、二、の請求書及び予めの領収証により、かかる金員を請求したものであるが、兼松江商に於てはかかる但し書きの特約があつても予定した三軒の買収はできず前記のとおり二軒のみで、しかも、これも地主安養院は土地所有権の譲渡には応ぜず、借地権の譲渡のみを認めたものであるから、予定の通路となすことは困難の状態となることも明らかなとおり、しかも一軒は買収できない結果ともなつたのであるから、上告人が資金繰りに苦しくとも、かかる金額につき該但し書きの特約についてかかる金額要求には応じかねるとして、該乙三、四号証によつても明らかなとおり、上告人のかかる請求を拒否してこれに応じなかつたものである。これは甲三号証の確認書によつてみてもかかる事実を明らかにするため作成されたものである。ゆえに一審判示のように本件訴訟を有利にするため上告人の依頼によつて作成したものではないことは自明である。

(5) かかる実情であつて、一審判示のとおり甲一号証による売買契約は係争物件を含まない本件土地のみを対象とした売買であつて、その売買代金七億一、三一七万八、〇〇〇円は本件土地の代金であつて、該九、四七五万四、五〇一円が本件売買代金額に含まれていない別個のものとする前提に立つてかかる請求をなしたものであるとのかかる認定も、前記のとおりの事実に反する誤つた認定である。

(6) 以上のごとき事実については甲一号証、甲三号証、乙八号証(川口の聴取書)、甲八号証の一、(高橋東二の本件訴前の聴取書で上告人が一審法廷で提出を被告に求めて提出されたもの)、一審証人高橋東二、同川口和昭の証言、代表者小杉の供述によつて説明できる。しかるに、原審に於てはかかる事実関係によつてみれば、経験則上信じうべきかかる書証や証言を信用せずし排除し、しかもその排除した理由を充分説明せずになされた判断であつて、それは明らかに判決に影響することは明らかである。

(三) 次に、一審判示(二項4の末尾)によると、兼松江商は本件係争物件の引渡しは受けていない旨判示しているが、かかる判示も次に述べるとおりの事由によつてみれば明らかな誤認である。

(1) 本件係争物件については、前記のとおり約定の三軒の買収はできず、二軒の買収となつたものであるが、これを兼松江商に対して引渡しを了していることについては、上告人の一審に於ける昭和五二年一一月二日付準備書面第二の一、の後段に於て述べたとおりであり、また、原審に於ける昭和五四年七月二六日付準備書面二項(1)、(2)、(3)に於て述べたとおりであつて、係争物件について買収できたのは該二棟の建物とその借地権であつて、地主安養院は該借地権の譲渡を認めており(甲一〇号証)二棟の建物についてもこれが所有権移転の登記手続が何時でもできるこれに必要の各書類は兼松江商に引渡してあるが、同会社に於てはこれが手続を都合によつてなしていないものであり(即ち、取壊すこととなる予定でもあるゆえ)また、現実の引渡も了しているものであることは、甲三号証の約定とともに、甲四、五、六、七号証の各証によつてみれば明らかなとおり、上告人より兼松江商にこれが引渡しを了しているから、これに基きかかる各約定がなされていることによつてみれば極めて明らかである。かかる引渡している事実が該各証拠(処分証書とみられる)は真の事実によつて証明されているに拘らずその理由を殆ど明示することなく排除しているものである。

(四) 次に、一審判示二項5の中段に、「本件係争物件については、上告人が道路建設の可能な状態でこれを確保した段階において、改めて別途に売買契約を締結することになつていたものであると推認することが相当であると判示されているが」かかる認定も次に述べるとおり事実の認定を甚しく誤っているものである。

(1) 即ち、判示によると「上告人が道路建設の可能な状態でこれを確保した段階に於て改めて別途に売買契約を締結することとなつていた」と認定しているけれども、道路建設の可能な状態でこれを確保した段階……というも、甲一号証の本件売買契約が締結された当時に於ては、道路建設が不能か可能かは判然としていたものではなく、むしろ可能であることを前提予期して約定していたものであつて、これによつて上告人は現実にこれが買収行為をなし、可能となすべくあらゆる努力を重ねてみた結果、前記のとおり一軒は買収さえできず二軒についても地上建物と借地権のみの買収で所有権の取得は地主が寺であるためこれが買収が困難であることが漸次あきらかとなつて、初めて可能とならないことが判つたものであることによつてみれば、判示認定のとおり「可能な状態でこれを確保した段階で改めて別途に売買契約をなすこととなつていた」とは到底みられないものである。即ち、本件契約書(甲一号証)によつてみても、三軒の家屋買収については責任をもつて速に買取り乙に引渡さなければならないと約定し、よつてこの履行を確保するため但書を設けていること、これはまた甲三号証の確認書(即ち、これが事実に基き双方が確約した契約書であつていわゆる処分証書である)によつてみても、その1に於て「道路用地の確保を甲が乙に約諾したものであり本契約の一部を構成するものである」と約定しており、またその2に於ては「甲が三軒の家を買取り乙に引渡した時を以つて本契約は完全に履行されたものとする」と約定していることによつてみても明らかであつて、判示のとおり改めて別途に売買契約を締結することとなつていたとは到底みられないものである。即ち、後述(五)(1)のとおりでもあつて、甲一号証による本件係争物件全部の三軒の建物、借地権、敷地の所有権を買収することによつて甲一号証の契約の完全履行を該確認書により約していることによつてみてもかかる認定は誤認であつて、しかも後述のとおり、甲三号証の確認書が本件係争を有利にするため上告人の依頼によつて作成されたものであるとの認定は、甲四、五、六、七号証の各証によつてみればかかる認定は誤つていることは極めて明らかである。

むしろ、被上告人こそ本件契約の履行さえなされていない状態に於て、本件係争物件は甲一号証の契約に含まれていないと先き走つた誤つた認定判断であつて過信過誤によるものである。

(五) なおまた、判示二項5の後段に於て、甲三号証の確認書は本件争訟を自己に有利に進めるために原告の依頼によつて作成されたものであることが認められたから、これをたやすく採用できないとこれを排除した理由の判示がなされているが、かかる認定についても次に述べるとおり、当事者が事実に基き合意の上なされたかかる処分証書を無視した誤つた認定である。

(1) 即ち、前記((二)の(4))のとおりであつて、乙三号証の一、及び乙四号証の一、についてみれば、上告人のかかる要求を兼松江商は拒否してこれに応じていないことによつてみれば、係争物件は甲一号証の売買契約の対象物件に含まれて約定している明らかな証左であつて、甲三号証の確認書の4の約定によつてこれを明確にし、かつその3の約定によつて道路用地とする三軒の土地及び建物を明確に表示し、その12の約定によつて甲一号証の約定どおり道路用地を確保することを再確約して、これが完成するまでは甲一号証による約定は完全に履行されていないことを相互に確認し、これが履行を約すことなど、これを明確になしたものであることによつてみれば、前記のとおりの現実の事実に基き双方合意の上作成されたいわゆる処分証書とみられるものであつて、判示認定のごとく該確認書は本件係争を有利にするために当事者がことさらに相通じてなした虚偽のものであるとは到底みられないものであることは極めて明白であり、ことに、これはかかる事実を明確にするとともに甲三号証に基き更に甲四、五、六、七号証を作成することによつて、甲一号証の本件売買契約の履行の実現や該物件の保全管理等につき双方合意の上該各約定をなしていて、これに基き双方は履行行為をなしている現実によつてみてもかかる認定はかかる事実を全く無視した誤つた判断であつて、これは経験則上信じうべき事実に則した証書であるのにかかる事実に反する判断によつてなされた甚しい誤認の判示である。

即ち、甲三号証はかかる事実を証明しているものであるから本件係争後に作成されたものであつても証拠能力、証拠価値がある(最判昭和二四年二月一日判決民集三巻二一頁)

(六) また、一審判示によると「兼松江商の商品有高仕掛品台帳明細書の写として提出した甲八号証の三、には本件土地の欄に「土地代(借地含む)」として代金七億一、三一七万八、〇〇〇円が計上され、あたかも右代金には本件係争物件に関する対価が含まれているかのごとき記載があるが、同号証を前掲乙一〇号証添付の別紙6と対照すると云々……と」判示されて甲八号証の三、のかかる記載は事実に反しているがごときかかる判示も誤つているとみられる。

即ち、判示のとおり乙一〇号証添付の別紙6にかかる記載がなかつたとしても、甲八号証の三、の該記載の態様やその字体によつてみれば、ことさらに(借地含む)との記載が後に記入されたものとみられないことは前記二、の(二)の(6)の甲三、甲八号証証人高橋、同川口の各証言や乙八号証の一、によつてみれば、乙一〇号証添付の別紙6にその記載がなかつたとしても、前記のごとき各証拠に基く事実に基いてかかる記載がなされているものであるから、かかる判断は前叙のごとき事実に則した実情を考慮することなくなされた誤つた判断である。

(七) ことに、兼松江商は商社としては日本に於ても屈指の商事会社であることは顕著の事実である。かかる会社が事実に則しないようなかかる重要な書類(甲三、四、五、六、七号証の各証)を作成調印したり、帳簿の記載をなすがごとき不正行為を果たしてなすであろうか、しかも、これが履行として上告人は兼松江商にこれが引渡をなし、あらためて管理の該約定をなし、また店舗建物を取壊すまでは上告人が賃借して喫茶店営業している。かかる現実によつてみても、かかる認定は事実に反する誤つた判断である。これは社会一般の通念よりしても会社の正しい運営による信用の確保等よりしても到底考えられないものであつて、かかる認定こそ経験則上信ずべき証拠を信用せず、その信用しない理由を示さずなされた誤つた判断である。

現に兼松江商は本件土地及び本件係争物件をともに昭和五五年五月に日本住宅公団に売渡していることによつてみても明らかである。

三、また、原審の判決理由一の4に於て、「次のように加える」としてその理由を次のとおり判示されている。

「更に、原審証人高橋東二の証言によつて成立が認められる甲第四ないし第六号証、原審における控訴人代表者本人尋問の結果によつて成立が認められる甲第七号証によれば、控訴人と兼松江商との間において、昭和五一年一〇月二九日付で同日控訴人は兼松江商に対し本件係争物件中控訴人が買収した二軒(三棟、借地権を含む。)を引渡した旨の覚書、同年一一月一日付で同日兼松江商は控訴人にその管理を委託した旨の管理委託契約書、同日付で同日控訴人は兼松江商からこれを賃借した旨の賃貸借契約書、昭和五二年三月三一日付で右管理料と賃借料(両者はほぼ同額である。)の授受に関する確認書がそれぞれ作成されていることが認められるが、前記認定の甲第三号証の作成経緯及び前記乙第一一、第一二号証の記載に照らすと、右甲第三号証作成後に作成された右甲第四号証ないし第七号証も前示認定を左右するに足りない。」と認定し、しかも、甲四号証乃至甲七号証は甲三号証の作成経緯及び前記乙一一号証及び乙一二号証の記載に照らすと一審の判示認定を左右するに足りないと、その証拠価値を排除している。しかれども、かかる判断は次に述べるとおり、証拠力、証拠価値を有しない証拠によつてなされた誤つた判断であるとみられる。

(一) 乙一一号証によつてみると、昭和五一年三月一九日午後一六時から同一七時までに、兼松江商(株)東京本社都市開発部応接室に於てなされた質問調書となつているが、答述した人は「別紙のとおり」なつていて、その末尾に都市開発部の部長高橋東二と同部開発一課の川口和昭の名刺とみられるものが添付されているが、この両名の何れを質問したかは定かでない。しかも、この両名が被質問者としての署名捺印は全くないことによつてみれば、これが質問調書としての証拠能力はないとみられる。後記乙一二号証と同様に被上告人の当時の係官が本件税務関係につき上告人の異議申立により係争となつていた際であつたから、ことさらにこれを有利にするために作成されたものではないかとの疑いを生じさせられるものである。

(二) しかも、本件係争地についての、質問に対する答についても「日本地建(株)がこの土地の買収のための代替地の買取りについて、見積額以上の支払いがあつた場合は、若干の補てんを見てもよいと考えていたものですから、第八条但書は本文の条文からして借地権の買収自体の額について場合によつては補てんすることを協議するものと解せられるが、その点明瞭ではありません」と述べている。即ち、この答弁によつてみても、本件係争地は甲一号証の契約の目的物件に含まれているとみられ、そして、前記のとおり、その但書はこの係争地の買収につき困難を生じ、その買収費が予期以上の場合を考慮してそれを補てんする趣旨であることを述べているものである。

(1) また、次の答についても「現在でも当該借地権付建物の引渡は受けていません、ですから当然当社の管理ではなく日本地建が土地の管理をしております云々」と述べている、即ちこの当時は引渡を了していなくとも、その後に引渡をなしていることは前記(二項(三)(1))のとおりである。

(2) なおまた、その答として「二軒分の借地権付建物を一億円で買取つてもらいたい旨の申出があつたが、前述のとおり借地権のみの買収はできません」と述べていることについても、前述(二項(二)(3)(4))のとおり約一億円の九、四七五万円が支出されているから、但書により補てん金として乙三、四号証のとおり、その請求をしているが、これを拒否して支払つてないものである。

(3) かかる次第であるから乙一一号証は判示のごとき証拠価値は殆どないものである。

(4) なお、これは甲八号証の一、の高橋東二の聴取書や一審に於ける昭和五三年四月二〇日の高橋東二の証人証書によつてみれば益々明らかであつて、かかる判示は誤りである。

(三) 次に乙一二号証についてみるに、これは昭和五一年七月一九日午前一一時に係官によつて川口和昭についてなされた「電話聴取書」による質問となつているが、かかる電話聴取書が証拠能力、証拠価値があるとはみられない。

(1) 即ち乙一一号証と同様に本件税務関係につき上告人の異議申立による係争中であり、しかも、右川口は本件係争物件である借地権付建物は別個の取引であり、その価値を協議する旨を述べたことはないと言つていることによつてみても、なおまた甲八号証の一、の高橋東二の聴取書については、右高橋が該聴取がなされていて、その聴取書に右高橋は署名捺印していると云うので、上告人は一審法廷に於ける口頭弁論の際に被上告人に対しこれが提出方を求めたが、被上告人側よりその提出がないので、上告人は提出がなければ裁判所にこれが提出方の申立をする旨を述べたところ、裁判官よりその助言があり、ようやく被上告人側よりその写を法廷に於て上告人に提供してきたので、その写によつて上告人は甲八号証の一、を作成して証拠として提出したものであるが、かかる事によつてみれば、被上告人は国家機関として裁判に於ても真に公正に真実を明らかにして公正の判断を求むべきであると思料するものであるが、前記のとおり乙一一号証及び乙一二号証のごときは、その証拠能力及び証拠価値が疑しきものであるともみられるところ、これをあえて証拠として提出し、前記のとおり甲八号証の一、は上告人の求めによつてようやく提出していることは益々乙一一号証及び乙一二号証の証拠能力を疑ざるをえないものである。

(3) しかも、昭和五二年一一月七日及び同月八日の川口和昭の各聴取書(甲八、九号証)昭和五三年六月一五日の川口和昭の証人調書によつてみれば該乙一二号証の電話聴取書は益々その真実性を疑ざるをえない。

四、以上のとおりであつて、要するに原審の前記のごとき判断は採証を誤つたものであつて、経験則上信じうべき証拠を信用せず、しかも、その理由の不備であることは二項の(一)乃至(七)に述べたとおりである。しかも前三項のとおり証拠能力、証拠価値の極めて疑しき証拠を採用し、しかも、前記のとおり真実に則している甲三、甲四乃至甲七号各証を排除し、その上前述のとおり高橋東二の聴取書(甲八号証の一、)一審の同人の証人調書、川口和昭の各聴取書、一審の同人の証人調書の各証拠を採用しないことは経験則上信じうべきかかる証拠を採用せず、その採証を誤り、しかもその理由を解明せずなされた理由不備の誤つた判断である。

以上

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